飢餓と移民の歴史を踏まえて、今のアイルランドがある (1)

アイルランドの歴史を語るときに避けて通ることのできない出来事、それは19世紀の大飢饉ジャガイモ飢饉ともいう)と、故郷を離れてアメリカやイギリス、カナダなど世界各地へ移民した人たちのことです。

移民の歴史を紹介する博物館EPICを訪ねました。

ダブリンを横切って流れるリフィー川沿いの船着場に小型の帆船があります。19世紀にアイルランドからカナダへ移民する人たちを運んだ帆船ジェニージョンストン号Jeanie Johnston のレプリカです。

全人口の1/8が餓死・病死。約1/4が海外へ大量移民

19世紀半ばに起こった「ジャガイモ飢饉」は,アイルランドに深刻な食糧不足と貧困をもたらしました。

アイルランドを支配していたイギリス政府は、飢饉への対策に消極的でした。
食糧が足りなくなってもアイルランドからイギリスへの食料輸出は減らされることがなく、土地を所有する地主は年貢が取り立てられなくなるとアイルランド人小作人を追い出すという方法をとりました。

つまりジャガイモの疫病による自然災害というよりは、イギリスの失政による人災だったと評価されています。

その結果、人口約800万人のうち少なくとも8分の1が餓死・病死し、約4分の1が海外へ大量移民する事態となりました。

大飢饉 1845-1849年の5年間で75万、続く50-54年には98万、55-59年には30万人がアイルランドをあとにしたと推計されている。
全島の人口は1841年に817万人、飢饉が始まった45年には850万人だったのが、1851年には567万人まで減っていた。大飢饉期間中には約100万人が飢えや病気で死亡したと考えられている。

佐藤郁 「アイルランドからアメリカへ−移民の歴史と経験−」 国際地域学研究 第5 号 ( 東洋大学国際地域学部) 2002 年3 月

現在のアイルランドの人口は約492万人(2019年アイルランド中央統計局推計)。イギリス領の北アイルランドと合わせた全島の人口は約600万人。

アイルランドは19世紀の人口に比べて20世紀の人口が減少している、西欧では唯一の国です。
大飢饉の始まった当時の人口に回復していないのです。

飢饉から逃れて船に乗り込んだ人びと

アイルランドを離れる人々を運んだ船は、飢饉船 famine shipと言われます。ダブリンだけでなく大西洋岸や各地の港から、飢餓を逃れて新天地を求めた人たちが乗り込んだ船です。

南のウェックスフォード州バロウ河沿いのニューロスNew Rossの港にも、移民の記念碑と帆船のレプリカがあります。

政治家を何人も輩出した、有名なケネディー家の先祖も、アイルランドからアメリカへ移民したアイルランド人でした。
J.F.ケネディの曽祖父 パトリック・ケネディと妻のブリジット・ケネディもここ ニューロスの港からアメリカへと渡って行ったのです。

「目的地を決めて船に乗り込んだのではなく、歩いて辿り着いた港で船に乗り込んで、降り立ったところが、たまたまイギリスのリヴァプールだったり、アメリカ東海岸のニューヨークだったりした」というケースも多かったと言います。

それほど切羽詰まって乗り込んだ船は、棺桶船 coffin ship とも呼ばれる劣悪な環境でした。小型で老朽化したボロ船、船の中でも蔓延する伝染病、栄養失調。航海のあいだに死んだ人は海に捨てられました。

移民の歴史博物館 EPIC The Irish Emigration Museum

ダブリンのリフィー川に面したガラス張りの建物、CHQ(Custom House Quay)ビルディング。
1820年に建設され、ダブリン港から荷揚げされた茶やタバコ、酒類の倉庫として使われました。

今はその広い空間を生かしてオフィスやイベントホール、フードコートなどが設けられています。

移民の歴史博物館EPIC The Irish Emigration Museum はこのCHQの中にあります。国立の博物館でないので有料です。

チケットを買ってヴィジターパスポートをもらったら、入り口から地下へ。
帆船や飛行機で、アイルランドを離れて行った人たちを象徴するオブジェがあります。

ワインの樽が貯蔵されていた地下の空間を生かして作られた博物館は、ビデオやタッチパネルなどのインターアクティブな展示です。

世界中あらゆる所へ移住して行ったアイルランドの人たちの歴史をわかりやすく辿ることができます。

「大飢餓時代(1845-1850)に続く10年間に、150万人のアイルランド人がアメリカ合衆国へ、34万人がカナダへ移住しました。」

「紛争」、「飢餓、仕事、コミュニティ」、「信仰」、「新世界への到着」、「世界中でスポーツ」、「発見と発明」、「音楽とダンス、伝統を分かち合うこと」、「創造とデザイン」などのセクションに分かれており、年代により、行き先別に、様々な仕事に就いた人たちが紹介されています。

では、展示の一部を次に紹介していくことにしましょう(つづく)。

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