家から車で15分。グレンダロッホの「ラウンドタワー」round tower 。
四季を通して景色の少しずつ変化する爽やかな谷に、すっくとそびえ立って、わたしたち人間の営みを見下ろしているかのような姿です。
この丸い塔はどんな役割をしていたのでしょうか。
ちょっと謎の多い この丸い塔のことを、調べてみました。
入り口はひとつ、東向きの塔
グレンダロッホの谷にそびえる丸い塔 Round Tour。高さ33メートル、離れたところから見ても、ひときわ目立つ存在です。
もちろん、近くから見上げると、まるで鉛筆のようなかたちが堂々として印象的です。
入り口は地上3.5 mのところに穿った一箇所だけ。 内部は元々は木の床で7層に分かれていて、梯子で上り下りするようになっていました。
初期キリスト教の聖人 聖ケヴィンを中心に集まった人たちの修道院の中心に聖堂があり、その正面が西向きに建てられています。塔の入り口はそれに相対するように東向きに設けられてあります。ちょうど、お寺の本堂と五重塔の関係のようですね。
大聖堂の祭壇側にあたる壁の後ろ側にまわりこんで、振り返って眺めてみると… ちょうど窓にラウンドタワーがぴたりと収まって見えるのです。
アイルランド全国各地に残された、丸い塔
アイルランドの全国32県(counties)のうち28県の65箇所に、これと同じような塔があります。
たとえばアイルランドの中央、シャノン川を臨む高台の修道院遺跡クロンマクノイズClonmacnoise。
こちらの塔は、おそらく1124年頃に完成したと言われています。
日本では平安時代末期、中尊寺の金堂が出来た頃にあたります。
実はこの塔はおそらく「2代目」。もっと古い時代に同じところにあった塔を作り直して立ち上がったもの。
こちらは中世のアイルランドを代表する遺跡ロック・オブ・カシェルRock of Cashel の丸い塔。高さ28メートル、漆喰などを使わずに石組みだけで作られてあり、クロンマクノイズよりもわずかに古い1110年頃のものです。
丸い塔は何のため?
古文書は、ほとんどの場合、丸い塔は鐘楼 アイルランドのことばで cloig-theachであったのではないかと述べています。
修道院やそのまわりの集落を目指して歩いて来る巡礼者たちの目印にもなったでしょうし、ひょっとすると、修道僧たちが聖なる言葉を書き写す書斎だったのか?
食糧や修道院の貴重品を保存する倉庫だったのか?
8世紀から11世紀ごろまでの時代には、ノルウェーのほうからヴァイキングがアイルランドへ何度も襲ってきたので、そうした外敵に備えるための物見塔だったのか?
攻撃された際に立てこもる砦だったのか?
…. そんなふうに、さまざまな説がありますが、今ひとつ、はっきりしたことは わかっていません。
おそらく、その全ての役割を担っていたのでしょう。
書斎としてはかなり暗かったでしょうし、逃げ込んだとしても下から火をつけられたら、ひとたまりもなかったでしょうね….
この威風堂々とした塔を建てることによって、修道院の人たちはもちろん、その修道院を建てて保護した地元の有力者が自分たちの力と富を誇示したという、もうひとつの意味も忘れることができません。
北のノルウェーからヴァイキングが襲来する時代、家や教会は焼き払われても、そのたびに繰り返し、建て直されて、今もたくさんの丸い塔が残っているのです。
謎に包まれた、丸い塔のそばを歩くたびに、昔のアイルランドのひとたちの暮らしや心のなかは、どんなだったのかな?と考えます。
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